書簡

※ここに書かれていることは全てフィクションであり雰囲気です。




 それから十数年後。
 イングランドに新たに校舎が立った。

 さらに数年後。
 創立者は各所にこのような書簡を送ったとされている。
 また、祭事にさきがけての招待に当たる書簡を出すことは通例とされているが、これらと同じ内容にあたる文章は二通のみとされている。これは創立者にとって特別なものだったからだとみてよいだろうが、実際他に何通、いや、何名のことを差しこの書簡が送られたのかは定かではない。
 光沢感をまとったすみれ色の便箋が美しく光っていた。
 最後に、この記録はXXXX年に確認できたものであり、あくまでも憶測の域を出ない。いずれにせよ、長きにわたり新たな伝統を築こうと試みた学舎のひとつに過ぎず、膨大な時のなかでは、ただ海を揺蕩う砂粒のひとつと変わらない。





 親愛なる皆様方へ。

 デヴォンに吹きます海風は、いっそう強くなりました。子らの額にあたりつける眼差しは、同じくより期待と見極めの意思が高まり、昨今、生きづらさを覚える学徒も増加の傾向にございます。──とは申しましても、我らの保護者でありました皆さまにおかれましては、斯様なことはご存じかと思われます。誠に勝手ながら、当時より盛大なご支援を賜りましたこと、ここに改めて感謝申し上げます。
 さて、今回お手紙差し上げましたのは、他でもありません。この度は、来年度に創立いたしますキングスカレッジオブアワーレディオブクロヴリービサイドデヴォン(以下、クロヴリーカレッジといたします)の創立式にご臨席賜りたく、ご連絡申し上げたしだいでございます。
 お耳に挟まれていらっしゃるかもしれません。私(わたくし)はこの度、デヴォンに新たに寄宿学校を作る運びとなりました。
 我々が寝食を共にした学舎は、あのような顛末となりました。当時の保護者様、並びに関係者一同、様々な胸中で二〇二二の秋を迎えられたこととお察しいたします。しかしそれは我々学徒も同じくでございます。大人というものに未だ眼光ひとつ向けることの許されなかった我々が、あなたがたの振るった腕ひとつで未来を左右されてしまったことはお認めください。我々は取ることのできる選択を精一杯に選び抜いたのです。私は、同学年を含めます学友の中でも、一際に恵まれた学校生活を終えることができました。教鞭をとるでなく、学舎を運営する道を邁進しましたのは、他でもありません、ご子息がたのおかげです。彼らは素晴らしい私の後輩であり、私の人生で得たかけがえのない宝物です。今日(こんにち)に至るまで、本当によくしていただきました。彼らのおかげで翌年度よりデヴォンの地にあらたな学びの門扉が開かれます。どうぞ、是非、今以上に誇りに思っていただきたく存じます。
 貴家におかれましては、これまでご子息を通じ多くのご支援をいただきました。一端の若造に過ぎませんが、この地を少しでもお気に召していただけたら幸いです。
 クロヴリーカレッジ創立のセレモニーに関して駆け足ではありますが説明させていただきます。光栄なことに、以下の方々に既にご臨席いただける運びとなりました。(以下にカーティス財閥、ザカライア・テイラーご子息、貴族の家柄の文字列が並ぶ)
 ささやかではありますが、立食の場などを設けさせていただく予定です。またとないご歓談の場となりますので、併せてご参加いただけますと幸いです。
 また、当面の運営が軌道に乗り次第の話で恐縮ですが、ご子息がたには折を見て特別講師をお願いする予定です。講師と申し上げましても、彼らの教訓や歩みなど、彼ららしさのある自由な講演を生徒に賜るといった内容を予定しております。──なぜこれを貴家にご説明さしあげるかと疑問に思われるかもしれませんが──もとより私の望みはたったひとつ、私がどれほどご子息に救われているのかをご理解いただきたいのです。血は水よりも濃く、こと醜聞にいたりましては現在でもこれほど世に説得力をもつものもありません。実際、二〇二一の呉には、エヴァンスも同じく辛酸を嘗めました。しかし、彼らの選びとった道をどうか心内でだけでもかまいません、輝くものとして扱いいただけたらと願ってやみません。私ごとではありますが、実際のところは、私がただ私の大切なものを自分の学徒に自慢したいだけなのかもしれません。貴家には更なるコネクションとしてご活用いただけたらとおもいます。我が学舎は貴家のご来訪をつねに歓迎致しております。セレモニーのみならず、以上のような講演にも臨席のご連絡をいただけましたら、これ以上のよろこびはありません。

 長くなってしまいました。
 どうぞご家族によろしくお伝えください。
 御返信はお電話か以下のメールアドレスでもかまいません。(前当主チャールズは現在国外におり、連絡がつかない場合があります。前当主にご用件の際はお手数ですが本家にご連絡ください)

 愛を込めて。
 ジャック・エヴァンス